「劇場に行こう」 ~ 白鳥の湖 ~ (2015年2月12日木曜日)
男性の皆様、自分の奥様を両腕で頭上に抱え上げて何分間直立し続けることが出来ますか?(、、、、そもそも抱えあげられますか?)
女性の皆様、片方のつま先だけで立って、足を上げて何分間バランスをとっていられますか?
先週土曜日、インフルエンザでダウンした小さな可愛いお嬢さんに代わり、くたびれたおばさんの私がピンチヒッターで松山バレエの「白鳥の湖」鑑賞に行ってまいりました。
松山バレエと言えば、森下洋子、清水哲太郎ご夫妻のペアがあまりにも有名ですが、2人揃って御齢65歳。
なんと、合計すれば130歳のこのお二人、未だに現役でバレエを踊っているのです。
「白鳥の湖」は誰もがよく知っている作品で、だからこそテクニックも表現力も最高が求められます。少しでもつまらないとあっという間に眠りに落ちてしまう難しい作品なので、これを65歳のペアがどう踊るのか楽しみである反面、本当にこの方々の踊りで観客を満足させられるのだろうか(失礼!!)等々、複雑な気持ちも多少ありつつ会場へ向かいました。
結果から言うと、、、、、満足でした。
前述の通り、本作品は高度な技術と表現力が要求されるバレエなのですが、そこは「新版」と銘打って、踊りの変更だけでなく曲順も入替え、演出もどかーーーんと変更したなかなか斬新な「新版・白鳥の湖」でした。
これは森下・清水ペアだからこそ許された演出であって、他のダンサーには絶対に許されないだろうな、、、と。
最大の見せ場である32回転のグラン・フェッテ・アン・トゥールナンもなく、オデット、オディールの他の見せ場も若いダンサー達のヴァリエーションやコーダにとって代わったりと、やや不思議演出で残念な箇所もありましたが、一般的には、65歳の方が16歳と21歳を演じる機会は、(宴会以外では)非常に少ないと思われるので、多少の違和感はあれど遠目にはそう大きな問題もありませんでしたし、何よりチュチュや白タイツをまだ着られる勇気と体型を維持できているということは本当に驚きでした。
ただそんなことを言ってはおりますが、技術の衰えを丁寧且つ正確な踊りでカバーしており、まるでレッスンVTRを観ているような安心感、安定感があり、二幕のオデットとジークフリート王子のアダージオは美しく、お二方が長年かけて培った、そして今も尚キープし続けているしっかりした技術をこの目にしっかりと焼き付ける事が出来、いつもとは違う感慨深さを味わうことが出来ました。
そのアダージオの間は会場のあちこちから鼻をすする音が聞こえてきましたし、未だに衰えないダンスへの執念と愛情、それを見守る観客の皆様の温かさを感じた舞台でもありました。
ダンサーは、若く技術もあり美しい頃には表現力が足りず、ようやく表現が出来るようになった頃には技術も美しさも下降線を辿り始めると言われます。
また、ダンサーの引き際も難しく、かつて森下さんがパートナーをつとめた伝説のダンサー、ヌレエフも最後の方は老体が痛々しく、引き際の難しさを痛感したものでした。
しかし一方で、定年後(パリ・オペラ座には42歳での定年制度があります)のマニュエル・ルグリの踊りはいまだノーブルで美しいですし、間もなく42歳になる熊川哲也氏も未だバリバリの現役で観客をぐいぐい引き込みます。
数年前に観た往年の名バレリーナ、マイヤ・プリセツカヤの80歳での「アヴェ・マリア」は大変に素晴らしく会場全体が感動に包まれたことを思い出しました。
色々思うと一概に語ることは出来ず、バレエだけでなく全てにおいて引際とは何なのか、いつなのかということを決めるのは難しいものだと改めて思いました。
いずれにせよ、あれだけコアのしっかりしたグランド・ピルエット・ア・ラ・スゴンドには驚きましたし、トゥで立ってアラベスクのポーズで支えなくバランスをとる姿を観て、あぁ、身体を動かすなんて億劫だわ、なんて言っている場合じゃないと思った次第です。
この貴重な舞台鑑賞の機会を与えて頂いたことに感謝するとともに、インフルエンザでダウンしたお嬢様の1日も早い回復をお祈りします。